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モノころがし

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ある日の下で

「お手頃簡単にできる料理のレシピもらえませんか」
そう頼むと、友人は不審気に首をかしげた。
「何で俺が?
 お前俺とかよりよっぽど料理得意だろ」
もはや趣味と化しているのは否定しない。
しかし。
「初心者向けのレシピとかあまりなくて」
「お前凝り性だからな…」
そこで、極上の料理を作るということはないが、手早くおいしく料理する村長んちの主夫(兼守人)の友人に目をつけたというわけである。
「でも初心者って? 誰」
「アニスです」
「…………………」
目に見えて硬直する友人。
そんなに反応しなくても。
「冗談です」
いうと、そのまま地面にくずおれる。
「……お」
「大丈夫ですか?」
「おおおおおお前ほんとだな! 本っ当に冗談だな!」
「そうですよ。前にもそう言ったじゃないですか」
そう、前にもそういって嘘をついた。
「ならいいけどさ…」
心底ほっとしたように肩をおろす友人。
気づかざるを得なかった。すべて隠しておくのが、みんなのためなのだと。


+++++++++


「あの…ちゃんとできて、る?」
「もちろんですよアニス」
彼女の会心の手料理を抱えてにっこりと笑う。
具が若干ナマだったり小麦粉が若干パサパサしていたりするのは…
こんど、作るときに自分が気をつけてやればいいだろう。
よくできているところをアニスの皿にとりわけてやりながら言う。
「……わたし」
アニスが、料理の盛られた皿を抱くようにしてもちあげながらつぶやく。
「料理、初めてだったの」
「そうですね」
初めてなのによくできました、と頭をなでてやると、少し泣きそうな顔をする。
洞に差し込む小さな木漏れ日が、彼女の頬でおどっていた。
こんな当たり前の小さなことを、これからいくつ重ねてやれるだろう。
願うのは続いていく日々。
同じように昇る明日。
それだけだった。

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