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聖剣伝説4 序章 【0】
それは、まるでおとぎ話のようだった。
禁じられた恋、人と精霊、そして時を止めた大樹
彼女は、おとぎ話の魔女になった。
ほろびの日まで、あと625日。
先代から守人の隊長職の引き継ぎを受けたとき、くっついてきたのが「大樹の巫女の護衛」だった。
大樹の巫女。
常はこのイルージャの象徴ともいうべき世界樹の洞で祈りを捧げ、人と交わることはおろか、人前に姿をあらわすことすら希な女性。
イルージャを外敵から守る役目を負う守人の対となる存在ともいうべき彼女は、精霊と、大樹と、そして人とをつなぐ存在として、人々の崇敬を集めていた。
要するに、
「とっつきにくい神秘的な美女。ってイメージだよな!
いいなーグランス、ちょっとあとで感想聞かせろよ! 約束な約束!」
「…イルージャ広しといえども、そんなセリフが出てくるのは多分あなたくらいですよ」
何故かものすごく楽しそうな友人に、若き守人の隊長・グランスは、あきれ半分、意外さ半分といった表情を浮かべる。
「まあ、光栄だとは思いますけれどね…」
歯切れの悪さに、友人が首をかしげる。
「何お前、気がすすまなかったりするわけ?」
「……………」
気がすすまない。正直に言えば。
グランスは、黙って懐から分厚い紙の束を取り出し、友人に渡した。
「何これ」
問う友人に、読んでみろ、と仕草で示す。
釈然としない表情のまま、彼はびっしりと並んだイルージャ文字に目を落とした。
「えー、なに、
朝の挨拶、『おはようございます巫女様』。若干間をとったのち会釈、右足から始めて3歩すすみ、再度軽く会釈。『お変わりはありませんか』。巫女様お言葉。返答、『それでは失礼いたします』。右足を半歩下げ、右向きに方向転換、4歩すすみ、退出の際に小さく会釈したのち終了。
何これ」
「巫女様対応マニュアル朝の挨拶の部。日常の部だけで全42部、読むのに3日かかりました。」
重々しく答えたグランスに、友人は何事か言おうとしたようだったが、それは止めてグランスは続ける。
「歩数とか一体どういう意味があるのか分かりませんが、それよりも考えてみてください。
巫女様お言葉があって、その返答に『それでは失礼いたします』しかないとかどういうことなんですか?
今まさに巫女様が腹痛とかそんなんでもんどりうってたらどうするんです。
それでも『失礼いたします』って退出するんですか?
だいたいこんな対応を十数年間毎日続けた先代も先代ですけど、それを普通に受け入れてきた巫女様もどうなんです、マトモな人なんですか?
私にどうしろというんです、このマニュアルどおりにしろというんでしょうけど、守人の隊長として以前に人としてものすごく抵抗を覚えるんですが。
…どうぞ、感想を」
促された友人は、それでもたっぷり間をおいた後、重々しく『感想』を述べた。
「まあ…せいぜい巫女様を怒らせないように気をつけろよ」
「怒ってくれるような巫女様ならまだ安心なんですけど…」
これから毎日顔を合わせることになるのであろう「大樹の巫女」なる未知の女性が、願わくは、せめて普通の人の姿をしていてくれればいいと思った。
その時のグランスにとって巫女とはまだ、人である以上に神に近い、あまりにも遠く、あまりにも想像に欠けた存在だった。