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モノころがし

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聖剣伝説4 第2章 【5】

カタン。
物音がして目が覚めた。
どうやらうたた寝していたらしい。
アニスは自分の迂闊さに少し赤面する思いで顔を上げた。
そこにあったのは予期したとおりの顔。
けれどその顔に、いつもとは違う…いや、いつもは奥に隠されている暗さが浮いているのに気付き、アニスは首を傾げた。
「グランス…?
 どうかしたの?」
「いや……」
頭をふり、項垂れるグランス。
アニスは少し戸惑い、そして小さく笑った。
「そこに掛けて。
 お茶を煎れようと思っていたところだったの」
グランスが言われるままに腰を下ろしたのを見て取り、アニスは奥へと足早に駆けた。
何かあったのか。
聞きたいけれど、聞いていいものか分からない。
会ってまだ数ヶ月。
互いの距離を測りかねていた。
そんなことをグルグル考えている内、花瓶の花が目に付く。
グランスがせっせと届けてくれた花である。
…いいことを思いついた。
「はい、どうぞ」
いそいそと自分も腰を下ろして、アニスは卓の上にカップを2つ置き、グランスに一方をすすめた。
「そろそろ散りそうだったから、花びらをお茶に浮かべてみたの。
 いい香りがするでしょ?」
嬉しい気持ちでそういうアニスに対し、どうも、と応じたグランスは、しかし暫くじっとカップの花びらの紅を凝視していたかと思うと、
「…毒です」
呟いた。
「え?」
「この花。毒をもっています。呑むと頭痛がする」
「うそっ」
口を押さえるアニスの前で、グランスはカップを手の中に収め、その温かさを遊ぶように転がしていたが、おもむろにそれを口に運ぶと一息に飲み干した。
卓の上に戻されたのは空のカップ。
花びらも消えている。
「グランス!?」
「とはいえ、大した毒でもないけれどね」
「でもっ、でも…!」
慌てて手を振るアニスに、グランスは自嘲気味の笑顔を向けた。
「…すみません」
「あっ、あやまるのはこっちの…」
「いや、こちらです。
 …君に、当たるつもりはなかった」
当たる?
あれで当たってたつもりなのだろうか。
いや、それよりも。
「何か、あったの、グランス」
思い切って聞いてみた。グランスはその問いに、自嘲の色を濃くして笑う。
「今日、森で他国の斥候らしき者数名と出会いました」
追い詰められた彼らの内の一人が周囲を巻き込んで自らの命を絶ったこと。
仲間に助けられて自分は無事だったが、助かった敵は一人もいなかったこと。
すべて、自分の、軽々しい行動が招いた結果だということ。
グランスは淡々と語った。
「愚かだと思います。
 自らの信念のためとはいえ、他者を巻き込むなど…。
 けれど、それ以上に…」
「グランス……」
掛ける言葉が見つからなくて、アニスはそっと、グランスの手に自分の手を重ねた。
冷たい手だった。
アニスは、人の手に長い間触れていなかったことに、ふと気付いた。
どれ位の間、そうしていたか。
グランスが詫びるようにアニスの目を見て手を離した。
アニスは首をふり、そしてぽつりと呟く。
「あの花も、そうだったのかもしれないわ…」
「え?」
「あの時、あなたがくれた花」
吸い込まれるような、深い紅をしていたあの花。
「あの花も、毒をもっていたのかも…」
そう言って、アニスは自分のカップの花びらを指先で掬った。
深い赤をただ見つめていた。

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