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【0】はじまりのことのは
なんつー可愛気のないガキだ。
その子供に対する第一印象は、そいつが、個性的な顔の育ての親の後ろに隠れたまま、こちらが握手を求めて伸ばした手を無視してそっぽを向いた時に確定した。
何日経っても打ち解けないし、飯は別のテーブルで食うし話しかけても無視するし。
じいさん悪いが俺もう抜けようと思うんだけどと相談して、まあまあワシが育てた子ながら少々愛想はないがあれでなかなか面白い子供だからもう少し様子をみてやってはくれんかと賢人に頼まれ、惰性で一緒にいるだけの毎日だった。
里に残してきた妹に会いたい。
そしてあの日。
通りがかった砂漠の町で、その事件は起こった。
町に入ったとたん、様子がおかしいのに気づいた。
喧騒。町の中心部からだ。
遠巻きにしている町人たちと、そしてその向こうから、悲鳴。
俺が里を出てから、何度も目にした光景だった。
帝国による弾圧。
故意か、それともうっかりかなんてのは関係ない。
帝国の意思に、ひいては皇帝の意思に逆らう奴はみんな罰を受ける。
相応、以上の罰を。
今、帝国兵に剣を突きつけられているのは親子づれだった。
若い女と、5つになるかならないかの、少女。
旅の途中だろうか。あるいは、どこかから逃げてきた難民かもしれない。
町の人間でもない親子を助ける気は、町人たちにはないようだった。当然だ。みんな、思い知っている。
子供を抱いて許してくれと泣き叫ぶ母親へ、帝国兵は何事か述べ立てていた。
いわく、帝国遠界区の治安を維持するための法律なにやらにより云々。
悪い民は法によって裁かれるというわけだ、結構結構地獄に落ちろ。
あいにく俺は、法なんて「朝9時までに起きて女神にお祈りしよう」くらいしかない辺境の里でも「無法者」の称号をいただいたディープな無法者だったので、遵法精神なんて持ち合わせていなかった。
そこで、唯一持ち合わせていた腰の剣に手を伸ばそうとしたそのとき、
一陣の風が吹いた。
俺の脇を駆け抜けていったそいつが、一振りの剣だけで、5人はいた帝国兵全員を地に伏せさせるまで、ああいうのを瞬く間っていうんだろう。
無造作に剣を鞘に収めたそいつ、いつも無愛想この上ないガキに、今助けられた親子が駆け寄った。
ありがとうございますと頭を下げる女性に、そいつは、ああ、といい加減な返事を返す。
ダメだ! お前はダメだ! せっかく綺麗な女性が感謝感激してお礼してくれてんのにお茶のひとつも誘えねえのかこの壊滅的無愛想め! ちなみに人妻とか子持ちとかそんなんは関係ないぞ!
流れに乗り損ねて気をもむこちらの気持ちを知ってか知らずか、そのまま踵を返そうとしたそいつの服の裾を、今度は子供のほうが捕まえた。
少女は笑った。
そして言った。
ありがとう、お兄ちゃん。
親子と別れて、俺の方へ歩いてきたそいつは、何ともいえない顔をしていた。
照れでもない、安堵でもない、どこか、救われたような表情。
俺は何も聞かなかった。
その日からそいつは変わった。少し、笑うようになった。
長旅はできなかった当時の俺は間もなくそいつとは別れたが、そのぎこちない笑顔だけは覚えていた。次にそいつと再会したあの時まで、ずっと。
姉と弟を犠牲にして、今の自分があるんだと、そいつが自分の過去を語って教えてくれたのは、再会してから一月ほどした、夕焼けの綺麗なある宵のことだった。
そしてそれから、更に一月……
その子供に対する第一印象は、そいつが、個性的な顔の育ての親の後ろに隠れたまま、こちらが握手を求めて伸ばした手を無視してそっぽを向いた時に確定した。
何日経っても打ち解けないし、飯は別のテーブルで食うし話しかけても無視するし。
じいさん悪いが俺もう抜けようと思うんだけどと相談して、まあまあワシが育てた子ながら少々愛想はないがあれでなかなか面白い子供だからもう少し様子をみてやってはくれんかと賢人に頼まれ、惰性で一緒にいるだけの毎日だった。
里に残してきた妹に会いたい。
そしてあの日。
通りがかった砂漠の町で、その事件は起こった。
町に入ったとたん、様子がおかしいのに気づいた。
喧騒。町の中心部からだ。
遠巻きにしている町人たちと、そしてその向こうから、悲鳴。
俺が里を出てから、何度も目にした光景だった。
帝国による弾圧。
故意か、それともうっかりかなんてのは関係ない。
帝国の意思に、ひいては皇帝の意思に逆らう奴はみんな罰を受ける。
相応、以上の罰を。
今、帝国兵に剣を突きつけられているのは親子づれだった。
若い女と、5つになるかならないかの、少女。
旅の途中だろうか。あるいは、どこかから逃げてきた難民かもしれない。
町の人間でもない親子を助ける気は、町人たちにはないようだった。当然だ。みんな、思い知っている。
子供を抱いて許してくれと泣き叫ぶ母親へ、帝国兵は何事か述べ立てていた。
いわく、帝国遠界区の治安を維持するための法律なにやらにより云々。
悪い民は法によって裁かれるというわけだ、結構結構地獄に落ちろ。
あいにく俺は、法なんて「朝9時までに起きて女神にお祈りしよう」くらいしかない辺境の里でも「無法者」の称号をいただいたディープな無法者だったので、遵法精神なんて持ち合わせていなかった。
そこで、唯一持ち合わせていた腰の剣に手を伸ばそうとしたそのとき、
一陣の風が吹いた。
俺の脇を駆け抜けていったそいつが、一振りの剣だけで、5人はいた帝国兵全員を地に伏せさせるまで、ああいうのを瞬く間っていうんだろう。
無造作に剣を鞘に収めたそいつ、いつも無愛想この上ないガキに、今助けられた親子が駆け寄った。
ありがとうございますと頭を下げる女性に、そいつは、ああ、といい加減な返事を返す。
ダメだ! お前はダメだ! せっかく綺麗な女性が感謝感激してお礼してくれてんのにお茶のひとつも誘えねえのかこの壊滅的無愛想め! ちなみに人妻とか子持ちとかそんなんは関係ないぞ!
流れに乗り損ねて気をもむこちらの気持ちを知ってか知らずか、そのまま踵を返そうとしたそいつの服の裾を、今度は子供のほうが捕まえた。
少女は笑った。
そして言った。
ありがとう、お兄ちゃん。
親子と別れて、俺の方へ歩いてきたそいつは、何ともいえない顔をしていた。
照れでもない、安堵でもない、どこか、救われたような表情。
俺は何も聞かなかった。
その日からそいつは変わった。少し、笑うようになった。
長旅はできなかった当時の俺は間もなくそいつとは別れたが、そのぎこちない笑顔だけは覚えていた。次にそいつと再会したあの時まで、ずっと。
姉と弟を犠牲にして、今の自分があるんだと、そいつが自分の過去を語って教えてくれたのは、再会してから一月ほどした、夕焼けの綺麗なある宵のことだった。
そしてそれから、更に一月……
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