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忘れ路
半年が経った。
世界は変わっていく。
自分以外は、みんな。
こんなところにいらっしゃったんですね。
声がして振り向いた。
この半年でようやく花が咲くようになった庭でひとり、風に吹かれていたエルディは、その声の主を見止めて心の中でため息をついた。
几帳面そうな青年。
確かウェンデルの出身だ。
先のイルージャの戦いで共闘した仲ではあるが、大して付き合いがあるわけでもない。
「…何の用だよ」
突き放すように言っても、相手に動揺の気配はなかった。
「先日お願いした話ですが、お引き受けいただけませんか」
「………」
その先日、最初に話を持ちかけたとき、横で聞いていたワッツに物凄い剣幕で怒鳴りつけられたのに、諦めてはいなかったらしい。
―英雄が必要です。
彼はそう言った。
―希望、といってもいい。
全てを最初からやり直さなければならないこの世界で、皆に光を与えるものが必要なんです。
希望になれ、というのか。
自分にとって何より大切だった希望が、すべて捧げられてしまったこの世界で?
「イルージャに降りた女神、彼女への信仰は少しずつですが広がりつつあります。
しかし、それだけではまだ弱い。
『世界を救った英雄』である貴方が世界を引っ張っていってくれるならきっと」
「俺は!」
言葉を切った。
たまらなかった。
「俺が本当に救いたかったのは、世界なんて大層なものじゃないんだよ…!」
絞り出すように言って、そのまま庭をあとにした。
もうこれ以上、あの声を聞くのにも耐えられなかった。
似ている、と気づいたのは全てが終わってからのことだった。
幼い頃からいつも側にいた親友。
話し方、声、ちょっとした仕草、生真面目で誠実な性格。
でも一つだけ違う。
あれ程のひたむきさは、親友にはなかった。
あんな、残酷なまでにひたむきな思いは。
親友が、どんな思いで魔に憑かれたのかは知らない。
それまでに、どれだけ苦しんだかは知らない。
でも一つだけ確かなのは、彼が魔に憑かれたまま逝って良かったということだけだ。
もしも自分が何をしたか知ってしまったら、きっと耐えられなかったろうから。
そうもしも、彼が今ここにいたらどうするだろう。
怒るだろうか。この半年、一歩も前に進めなかった自分に?
それでも良かった。ただ。
『もう一度あえるなら』
その言葉だけは飲み込んだ。
見上げた青空だけは、遠い昔と同じ色をしていた。