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モノころがし

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聖剣伝説4 第1章 【1】


ほろびの日まで、あと624日。



見上げる。
深呼吸一つ。
吸いすぎた。

軽く咳き込みつつ、グランスは大樹の洞の前に立ち、その奥の暗がりを伺った。
人の気配無し。
人外の気配も無し。
肩では風の精霊ジンが平和な顔でまどろんでいる。
人差し指でぺいっとジンをはじくと、精霊は抗議するようにくるんとまわって虚空へ消えた。
この島では、こうした精霊たちが数多く息づいている。
しかし、この洞の奥にはそれも感じられない。
気配を伴わないただただ大きな存在感だけがあって、皆それに塗りつぶされているようだった。

「大陸には、虎穴に入らずんば虎児を得ずって諺があるらしいぜ!
 とりあえずガンガン進んでみろってことだな!」

友人のアドバイスめいた何かを思い起こし、グランスは意を決して洞へと一歩足を踏み入れた。

歴代の守人隊隊長が巫女に会うために通った道、足場は悪いものの、それなりの道は引かれている。
光源といえば、申し訳程度の明かりがぽつんぽつんとあるばかり。
それなのに、何故か洞の中は薄ぼんやりと明るかった。
こんなところにずっとこもっている巫女という存在。
その人間離れっぷりを見せつけられるような思いである。
と、その時、
「………?」
右手にかすかな気配を感じて、グランスは立ち止まった。
見れば果たしてそこには人の姿。
目をこらすまでもなく、それが女性だとわかる。

随分と大人しげな、陰の薄い女性だった。
わずかにこちらへと微笑みかけるその表情にも、これといって印象を残すものがない。
巫女の身の回りの世話でもしている女性だろうか。
そう思って、グランスは歩を進めた。
「失礼、こちらにお住まいの方でしょうか」
近づくと、女性が随分と小柄であることに気付いた。
自分の素性、今日ここに来た経緯を説明し、
「巫女にお目にかかりたいのですが、今、どちらに?」
聞くと女性は、少し困ったように笑みを浮かべた。
依然、印象に残らない曖昧な笑みを。
「あの…ここです」
は? こことは?
聞きそうになって、グランスは口をつぐむ。
巫女に自由に会うことを許されるのは、守人の隊長の職に就く者のみ。
ということは、この洞に、余人が住んでいるはずもなく、
「私が、大樹の巫女です。
 アニスと言います。よろしく、グランス」
大樹の洞ただ一人の住人は、呟くように言葉を紡ぎ、微笑んだ。
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