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モノころがし

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聖剣伝説4 第1章 【4】

樹の民は皆、何か植物を手にして生まれてくる。
守護植物という。
樹の民はそれぞれの守護植物をお守りとして身につけ、生涯を共にする。

けれど、アニスは自分の守護植物を知らない。

本来、大樹の巫女とは、「大樹の祈り」と呼ばれる植物を守護植物とする者が就任するものだ。
しかし近年のイルージャを巡る状況は、その伝統に修正を迫るほどの厳しいものだった。
天災、不作、そして外敵の侵入。
イルージャの自警隊である守人だけではそれを全て塞ぎきれない。
事前にそれらを察知するだけの高い能力をもつ巫女が求められていた。

「大樹の祈り」を守護植物として生まれたものは、必ず高い精霊力をもっていたから、大抵は伝統通りに巫女が選ばれた。
しかし、先代の巫女は、「大樹の祈り」を持って生まれた子供ではなく、アニスを後継に選んだ。
まだアニスが、8歳だった時のことである。

本当は、おぼろげながら覚えている。
一人の、普通の樹の民としての道を絶たれ、大樹の巫女として生きることになった日から、目にすることも禁じられてしまった、名前も知らない自分の守護植物。
あのグランスという守人が昔摘んできてくれた花の中に、自分の守護植物があったので、アニスはその花をくれるように頼んだのだ。
グランスはその花を取り上げると、自分の髪にそっと結わえてくれた。
たしか、赤い花だった。
深い、深い色の……
「アニス様!」
はっとした。
見れば先日、就任の挨拶に来て以来音沙汰のなかった守人隊隊長が、自分のすぐ目の前まできて、心配そうにこちらを見ていた。
「アニス様、どうかされましたか?」
「……アニスでいいって言っているのに」
先日も言ったことを繰り返す。
「ええっと……
 失礼しました、アニス」
「敬語もやめて」
大切な思い出の糸口である彼にくらい、少しは普通の人間として接して欲しいと思うのは、ワガママではないと思うのだ。
多分、きっと。
グランスは少し戸惑うようにしていたが、ややあって小さくため息をつくと、
「……敬語は地なんですけど……。
 いや、わかった、アニス。
 それよりこれを」
そう言って、差し出されたものに、アニスは目を瞬かせた。
色だった。
赤に青、水色、白、黄色、とりどりの花の束。
「…これは?」
「以前、アニスに差し上げた花をみつけた場所で摘んできました。
 ……摘んできた。
 この中に…君にあげた花もあるだろうか」
そっと花束を受け取って、見つめた。
香りが溢れる。
光までが溢れるようだった。
「……ないみたい。この中には」
「……そ、そう」
アニスに似合いそうなのを選んで摘んだつもりだったんだけれどと、グランスはため息をついた。
「ありがとう。大変だったでしょう?」
「いや……
 すまない、用はこれだけなんだ。
 邪魔をして悪かった」
そう言って、どこか所在なげに背を向け、出て行こうとするグランスの背中に、アニスは思わず呼びかけていた。
「あの!」
足をとめて、不思議そうにこちらを振り返る彼に、自然に笑みがこぼれる。
「良かったら、また摘んできてもらえるかしら。
 あの時の花を……もう一度、見たいの」
グランスはちょっと驚いたように目を見開き、そして小さく頷くと、また来ます、とだけ言って洞の回廊の奥へと消えていった。
「敬語はやめてって言ってるのに」
笑って、アニスは手の中の花の一輪を手にとり、そして優しく口づけた。
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